火花 by 又吉直樹

普段小説自体をほとんど読まないので、芸達者な人というのはなんとなく知っていましたが、あまりなじみのない純文学の本を、何が凄いと言われているのかが理解できるかわからなかもと思いながら読み始めたものの、一日で一気に読んでしまうほど、読みやすく、そして読み終わったあとのなんとも言えないいたたまれない気持ちから、こういうのが芥川賞というものなのかと妙に納得させられた作品でした。

一つ一つの描写が驚くほど鮮明に自分の中で映像化されていき、その一つ一つの場面に自分も第三者として居合わせているような情景がずっと浮かびながらストーリーを読み進めました。
まるで映画を見ているよう。
おそらく本を書く側の人間は少なくともそうやって想像しながら書いていてそれがどこまで読み手に伝わるかと言う事なんだと思いますが、それにしてもほとんど読まない人にそれをさせることができると言うこの文章力。
また、凄まじい語彙力を持って表現される現実と擬態の数々が想像を深めるのにとても有効に機能しています。

ストーリーにおいては、全くハッピーエンドになっていかない本の中での現実が、すごくリアリティーがありました。
お笑い芸人の世界に人を笑わせたいと言う事は共通項でありながら自然体でそれが表に出てくる人と無理矢理捻出している人いろいろいるんだろうな。
そして志した人の中で成功する確率は天文学的に少ないのだろうなと改めて思いました。
この本の中の主人公が辿る道のほうがよくあるパターンで、出ている人たちだって、飽きられないように、必死に努力をしていて、それができる人しか残っていかないとても往相の激しい世界。

お笑いの世界も、音楽の世界も共通して思うことですが、スポーツや受験の世界と違い明らかに実力を測る指標がない、(実力がなくても人気で何とかなっている人たちがたくさんいる世界)こういう世界は本当に残酷だなと思う。強いか弱いかが勝てるか負けるかを決める指標であればそこには明確な差がある。

また、何か心の中で自分は他の人から外れていると感じている人が同士というか師匠というかを見つけそこをよりどころに、東京での生活をうまく乗り越えていこうとするけれどもうまくいかないというはがゆさ。

全く経験したこともないし経験するはずもない世界なのになぜだかとても共感をしてしまう、そんなお話でした。

いろいろな本を読んでもっと賢くなりたいなと、なぜか読み終わった後に思った。

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